機械制御は「PLCによる制御」が一般的であり、当社でも多種多数の装置開発の実績があります。一方、装置に要求される仕様によっては、PCやマイコンで制御しなければならないケースもあります。
株式会社鈴木では装置の仕様に応じて最適な制御方法を選択し、装置開発を行っております。その中でも現在販売中のディスペンサを例に「PCによる機械制御」についてご紹介します。
品種切り替え時のバックアップピン配置作業における問題を解決したい
背景
ディスペンサを開発する上で要求された制御仕様
ディスペンサとは基板上にボンドやハンダ等を高速に塗布する装置です。
マウンタと同様に基板製造ラインに入る加工装置です。
当社でディスペンサを開発するに当たり、仕様として以下が求められました。
制御仕様
1. 高速、高品質な塗布
塗布の制御処理には、リアルタイム性及び高速処理の実現が必要
2. 高精度な塗布
塗布状態の検査及び基板のアライメント補正に、画像処理が必要
3. 高い操作性、拡張性
タッチパネルの採用、操作性が良く多彩な情報を表現可能にしたユーザーインターフェースの開発及び世界標準のWindows上で動作する汎用機器を利用可能にすること
4. 基板の反りに応じた高難度の塗布を実現
反りの検出には、行列や3次元計算等の科学技術計算処理が必要
課題
従来の制御方法では要求された仕様を実現することができない
従来当社で主に利用していたPLC制御を想定したところ、今回の制御仕様の実現には様々な問題が発生しました。
1. 高速、高品質な塗布
PLCはシングルタスク(ループ処理)の為、処理に優先順位をつけて実行することができません。またプログラムの規模が大きくなるとループ間隔(スキャンタイム)も増大するので、リアルタイム性及び高速処理が確保できません。
上図において塗布処理を50ms 間隔で実行しようとしても、処理のループ間隔が20ms の場合、塗布処理の実行間隔も±20ms 程度ばらつきが発生してしまい、塗布品質が安定しません。PLCで塗布品質を満足するには、高価な専用の塗布コントローラが別途必要になります。
2. 高精度な塗布
PLCの制御構成で画像処理を行う場合、画像処理を行う機器またはPCを別途準備し、LANやシリアル通信によって処理を実行する構成になります。
その場合、高価な機器を追加しなければならず、装置価格が増大します。またPLCと画像処理にかかる通信時間も長く、高速処理を要求される装置に向いていません。
3. 高い操作性、拡張性
PLC用のタッチパネルは一般のPC用と比較し高価で、画面構成も決められた部品の組み合わせでしか設計できず、自由度が高い構成にできません。
また、Windows機器との互換性がないため、Windowsで動作するソフトウェア、ハードウェアの利用の考えた場合、別途PCを準備する必要があります。
4. 基板の反りに応じた塗布を実現
基板の反りは、基板上面の高さを数点測定し、その結果のデータを用いて、行列や3次元計算等を行い算出する必要がありますが、PLCでは大量なデータを扱う計算や科学技術計算処理ができません。
解決策
制御方法の抜本的な見直し
仕様を全て満足するにはPLC制御では実現が厳しいため、PCによる制御を選択しました。
しかし、PCで制御する場合、Windows上で機械制御を行うため処理のリアルタイム性が確保できません。そのままでは要求性能を満たすことができず、リアルタイム性を確保できるリアルタイムOSを導入し開発を行いました。
リアルタイムOSとは
リアルタイムOSとはリアルタイムシステムのためのオペレーティングシステムです。
組み込みシステムに必要な時間資源の優先度に基づく配分と実行時間の予測可能性を提供することに特化したマルチタスクOSです。
1 .高速、高品質な塗布
リアルタイムOSでの制御は優先順位に応じたマルチタスク処理が可能です。
処理(タスク)の優先順位が「処理A < 処理B < 処理C < 塗布処理」の場合、上図のように優先順位高い処理を優先して実行が可能です。
塗布処理を瞬時に実行しようとした場合、他の処理が実行中であっても優先順位に従い実行中の他の処理を中断し塗布処理を実行することが可能なため、塗布にばらつきが発生しません。
リアルタイム性および高速処理が確保できますので、高価な専用の塗布コントローラを使用しなくても高速、高品質な塗布を実現しました。
2. 高精度な塗布
採用したリアルタイムOSは1台のPCでWindows OSとリアルタイムOSが共存可能で、装置制御とWindowsの並行動作が可能です。画像処理用に別途PCを準備する必要がありません。
また、操作用のプログラムや画像処理プログラムはWindows上で動作するソフトウェアになりますが、同じPC内で制御プログラムも動作しますので、プログラム間の通信も物理的な配線を必要とせず、PCのメモリを介して行うことが可能です。
PLC構成のようなLANやRS232C等のシリアル通信と比較し非常に高速な通信が可能になりました。
3. 高い操作性、拡張性
操作プログラムはWindows上で動作するソフトウェアになりますので、Windowsの特色を生かした自由度の高い豊かな表現が可能です。また、タッチパネルも汎用的なPC用のタッチパネルを使用できますので装置価格を抑えることができました。Windowsに対応した様々な機器を使用できますので拡張性が拡がりました。
タッチパネルによる高い操作性を実現
4. 基板の反りに応じた高難度の塗布を実現
制御プログラムは、C言語等の高級言語による記述になりますので複雑な計算が可能です。
3次元計算や行列計算ができますので、基板の反り状態を検出し、反りの状態に合わせた難易度の高い塗布が実現できました。
基板上の任意のポイントにおける基板の高さをセンサにて検出
検出したポイントの高さのデータをもとに3次元補間計算し、基板の反り状態を算出
完成した当社ディスペンサ『CPD-1000 type V』
当社では今まで取り扱ったことがない「リアルタイムOS」を利用した制御ということもあり、開発当初は苦労の連続でしたが、今まで培ってきたノウハウを活かし、「リアルタイムOS」上での複雑な制御をディスペンサにて実現することができました。
動画でご覧いただけます
品種切り替え時の作業コストを大幅に改善
本開発により、これまで一本一本手動で配置していた作業を自動化することができました。それにより多品種少量生産の基板製造工程で発生する品種切り替え時のバックアップピン回収・再配置作業を大幅に改善することができました
また、バックアップピンの配置ミスによる部品破損もなくなったため、手動での配置に比べ歩留まりの向上に貢献することができました。
担当者から
弊社では、ディスペンサのような自社ブランド装置開発以外にもお客様のご要望に合わせた装置開発、工場ラインの監視・管理システム等の開発を行っており、メカ、ハード、ソフトの設計業務から、部品調達、組立まで一貫して行っています。
ご興味のあるお客様は、弊社営業までぜひお問い合わせください。
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